ファジカルファイター
メーカー:シグマ

1991年に発売されたファミリーコンピュータ用のシューティングゲーム。スーパーファミコンが発売されたのが1990年なので、まさにファミコン斜陽期に世に出たゲームであり、僕もつい最近友人宅で偶然目撃するまでは、その存在すら知らなかった。つまりこのゲームを手に入れたのがつい最近なので、説明書がないのが悔やまれる。ゲームの内容は、敵を倒して貯めたお金でパーツを買い自機「ファジカルファイター」をパワーアップさせ、全8ステージを進んでいくというシステムである。

ファジィ

なんとも懐かしい響きだと感じる人も多いのではないだろうか。ファジィ。ファジィとは元々アメリカの学者が提唱したコンピュータに曖昧さを盛り込むという理論である。アメリカでは見向きもされなかったが、曖昧を文化とする日本の家電業界で突然受け入れられ、90年初頭に一種のブームを巻き起こし産業界の流行語にもなった代物である。
「ファジカルファイター」もまさにこのファジィブームのまっただ中に発売されたものである。それだけでも半端じゃない安直さだが、じゃあゲームのどの辺がファジィと関係あるのかって関係あるも何も自機の操縦自体がファジィ。だれがそんな変な戦闘機設計したんだ。シグマのスタッフのやっつけ仕事ぶりが伝わってくる一品である。

強烈なプロローグ

やはり斜陽期に発売されたファミコンソフトだからなのだろうか、スタッフのやっつけ加減はこんなものでは終わらない。
電源を入れてしばらくすると、ファジカルファイターのバックストーリーが流れ出す。

「ここは とあるほし FUNNY」
FUNNYって滑稽とかとか奇怪とかいう意味なんですけど。自分の星にそんな名前を付けるとはそんなにどうしようもないほど奇っ怪な星なのか?
「どんなばしょへも あっと いうまに いったり きたりできる ふしぎな せかいです」
そりゃ奇っ怪だ。
さらにそこに住む人々は、その不思議な力を生かして平和な生活を送っていたそうだ。そんなどこでもドアみたいな世界をどう平和に生かしてるのか不明だがやはりそこは人間の知恵というものなのだろうか。
しかしその平和な世界に魔の手がせまってきた。元々不安定な惑星奇っ怪の空間を安定させる「ディメンジョンストーン」なるものが、何者かに奪われてしまったのだ。その結果空間がゆがんでしまい、
「まちの そとには このよのものとは おもえない ふしぎなせかいが
 ひろがり たいへんな こんらんが おこりました」
既に空間移動が出来る時点で十分不思議な世界だと思うが。と、その時出てきた画面を見るとなんか巨大なエンピツとかコンピュータの基盤のオバケみたいなのがごちゃごちゃ乱立している。一体どこまで奇っ怪になれば気が済むんだこの星は。
しかしその混乱の中、ディメンジョンストーンを探し出そうと、一人の勇敢な少年が名乗りを上げるのであった。
「しょうねんのなは マルク まちはずれにすむ きこりの むすこでした」
え?
「おうさまは そのしょうねんの ゆうきを たたえ
 おうけに ふるくより つたわる のりもの
 ファジカルファイター を あたえ
 ディメンジョンストーンを さがしだし
 せかいを すくってほしいと たのみました」
落ち着け。
まず今から戦闘機に乗り込む勇者がきこりの息子ってのに強烈な理不尽さを感じるが、王様もいきなり現れたきこりの息子に王家の宝を与えて世界託すなって。この王家にはきこりの息子より勇敢な兵士が一人もいないらしい。しかもこの王様、ゲーム開始直後にこんなことまで言う始末。
「このせかいを すくえるのは おまえだけじゃ」
きこりの息子をなんでそこまで買ってるんだあんたは。それともこんな王様だからディメンジョンストーンという重要なものをあっさり盗まれるんだという理論も成り立つのか。そう考えるとつじつまが合う。惑星奇っ怪なら人間が奇っ怪でもおかしくない。

ファンタジー?

かなりのやっつけぶりを発揮しているストーリーだが、肝心のゲーム部分はというとさらに職人的なやっつけぶりが加速している。
まずゲームをスタートして現れるのは、ドラクエ1くずれの見下ろしマップ画面。シューティングじゃなかったのか?しかも武器屋があったり道具屋があったり宿屋があったり武器屋のオヤジは口ひげを蓄えてたりと、どこから見ても立派なドラクエのパクリです。さらに主人公のステータスを見てみるとHPとかMPとかとか明らかに何も考えてないだろ的略号が並んでいる。確かに当時は人気作を安易にパクったゲームも多かったけどシューティングゲームでRPGをパクろうという発想がすさまじい。

気を取り直して、宿屋から戦地へ赴くことに。颯爽と登場するファジカルファイター。「ファンタジーゾーン」のオパオパを彷彿とさせる流線形のデザインであるこのファジカルファイターには、様々な機能が付けられている。ショットやシールドなどのパーツが店で買うことでパワーアップできることはすでに述べたが、ファジカルファイターは更に魔法が使える。RPGの鉄則に乗っ取り、MPを消費して魔法を使うのだ。さすが王家の宝。
そして最大の売り、自機操縦のファジィ機能。しかしなぜか初期設定ではファジィ機能がオンにされていない。というわけでせっかくだからオンにしてみる。すると、なんと自機が時折勝手に動き出すではないか。敵や敵の出す弾に反応して動くらしい。なるほど自動的に敵をよけるという機能かさすがはファジィ機能と思ってたらなんかやたらと弾によく当たる。確かによけるにはよけようとするんだが、弾の来る直線上に逃げていくよけ方しかしようとしない。例えるならドッヂボールが飛んでくるのと同じ方向に走って逃げてるようなもので、横によけるという知識をファジカルファイターは持ち合わせていないらしい。
さらにこのファジィ機能は攻撃モード防御モードがあるらしい。今の状態は防御モードだがあんまり使えないので、攻撃モードに切り替えてみる。するとなんとまあ便利なことに自機が敵に突っ込んでいくそれってただの特攻じゃねえか。しかも自機を突っ込ませても敵はいっこもダメージ受けないので、どうも攻撃モードとは自分自身を攻撃するモードのようである。さらに攻撃・防御モードとも、敵も何にもないところでも時折勝手にぶるぶる震え出す。恐らくこの「王家に古くから伝わるファジカルファイター」は、あんまり古いので回路が一部腐ってるらしい。
もっとも、このファジィ機能は「アドファジィ」(訳:曖昧さ追加)というアイテム購入によって強化することができ、防御モードはほんのちょびっとだけ横によけることを覚えてくれるようだ。だが攻撃モードはさらに意気盛んに敵に突っ込みだす始末。

というわけであまりに使えないので、大抵の人はファジィ機能をオフにし、手動操縦に切り替えることになる。でもこれってファジカルファイターの意味ないじゃん。さすがに奇っ怪な王様だけあって、とんでもないものをきこりの息子に手渡したものである。しかしそれをいきなり乗りこなすきこりの息子を見てると確かにこいつなら世界を救ってくれそうな気になってしまうのは気のせいか?

究極のやっつけ仕事

またこのゲームは8ステージあり、しかも敵を倒してお金を稼ぎ、パーツを買ってパワーアップさせるという作業がある程度必要なため、けっこう時間がかかってしまう。さすがに電源切らずに一気にクリアしろとはスタッフも言いづらかったらしく、「にっき」という名のパスワードを用意し電源を切った後でも続きが出来るようになっている。
まあパーツだけでもショット、シールド、エンジン、その他手に入れたアイテム群があり、さらにHP、MP、Gなどのパラメータもあるので、それらのデータをパスワードに埋め込めば少なくとも20文字程度になってしまうのは仕方ないと思いきや表示されるパスワードは数字4文字だけ。どこをどうやって4桁の数字に全データを埋め込んでるんだと思いつつ、試しに2ステージでパスワード「8009」を取り、タイトルに戻ってその文字列を入力してみる。
おおちゃんと2ステージに戻ったけど稼いだお金634Gが300まで減ってるんですけど。しかもショットのパーツが覚えもないのにパワーアップしてるし。まさか。とりあえずそのお金でHPをアップしてみる。お金は0Gで、HPはさっきより幾分アップしているので、パラメータが変化しているはず。さあパスワードを聞いてみよう。
「8009」
やっぱり。


結局Ntakiは、パスワードを使わずパーツもその時あるお金以上のものは一切買わずに進んでいったが時間的にも精神的にも苦労したのは言うまでもない。しかし、とにかくあらゆる部分に手抜きなゲームシステムが充満しているこのファジカルファイターは、そもそもファジィ機能をゲームに使っちゃった時点で愛すべきクソゲーとしてもっと認知されるべき作品だろうと僕は思う。久しくファミコンから離れていた自分に、このゲームは忘れかけてた笑いのつぼをガンガン押しまくってくれた。
その点で、シグマのスタッフには最大級の敬意を表したい。シグマのスタッフ・・・シグマ・・・・・・・しぐ

ごめん、シグマってどこ?

他の能書きも一応見てやる
おまえ何かうるさいだまれ